2021-01-01から1年間の記事一覧

第72回 山登り

宍粟の山で 私はお洒落には無頓着だが、衣装棚にはカラフルな服がぎっしり並んでいる。シベリアやモンゴルでのフィールドワークでは、氷点下40度を下回るなか何日も歩き続けることがあるので、軽くて暖かい登山用のウェアを買い集めてしまう癖がついているか…

第71回 発酵のつながり

「エフ」 モンゴルの草原で私を育ててくれたおばあちゃんは、「エフ」づくりの名手だった。エフとは、言葉の意味としては「はじまり」や「みなもと」に近く、この場合には、家畜の乳を搾れなくなる秋の終わりに、瓶に詰めてとりおかれるヨーグルトの上澄み液…

第70回 「遊牧民の野菜づくり」

モンゴルでは草と野菜はどちらも「ノゴン」と言い、言葉の上では区別がない。草原に自生するニラやネギを肉料理やスープの香りづけにしたり、カブの仲間を漬物にして食べることはあったが、野菜が主役になる料理はなかった。金沢の中華料理店でコックをする…

第69回 庭木の散髪

“木”の原風景 「木があれば、水が流れる。水があれば、草が茂る。草があれば、家畜が肥える」。モンゴルの遊牧民は、調べにのせて子どもにそう教える。ただ幼い頃の私は、はじめのくだりだけ合点がいかず、逆じゃないのかなといつも不思議だった。木といって…

第68回 草との再会

緑の光 目を閉じて、故郷の思い出をさかのぼっていく。すると、その源流の少し手前のあたりで、淡い緑のきらめきと、ふくよかな芽吹きの匂いに包まれた記憶に行きつく。生まれたての子羊を乗せた籠を抱えながら、しばし歩みを止めて「ノゴントヤ(緑の光)」…

第67回 「文盲から文明へ、その向こうへ②」

前回連載で最終回予告をしたのは、去年の夏の盛りが過ぎた頃だった。それから1年近く、未完のまま更新を滞らせてしまったことになる。まずは読者のみなさんに、音沙汰なしに長らく連載を放置してしまったことをお詫び申し上げる。 文盲から文明へと歩む旅路…

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